#172 I’m Not in Love_3

「I’m Not in Love」その3。今回で最後です
中間部におけるベースソロパートと言えば忘れてならないのが … という所で前回は終わりました。
本曲を知っている人なら当然 ” ああ!あれね!! ” とお分かりの事。あの女性による囁き声、
所謂ウィスパーボイスについてです。

ベースソロを入れ終えてから聴き返していた面々でしたが、ケヴィン・ゴドレイはまだ何か欠けていると
感じていました。” 次にやるアイデアは?!” と皆に問いかけたそうです。
そのフレーズである ” Be quiet, bigboys don’t cry ” とはロル・クレームが何気なく発した言葉で
あったらしく、これを取り上げる事に皆の異論はありませんでした。問題は誰に歌わせるかという事
でしたが、まさにその時幸福な偶然が起こりました。ストロベリースタジオの秘書であった
キャシーという女性がエリックへ電話が入っているとスタジオ内へ入ってきて告げたのです。
” この声だ!俺が求めていたのは!!” とロルが歓喜し、早速彼女をブース内へ招き入れ録音を
始めました。キャシーは困惑し拒否さえしたそうですが、皆で説得、というか口八丁手八丁で
丸め込み ” 電話口で話す様にしてくれればイイんだ!” 、などと何とかその声を録り終えます。
あの中間部のパートにはこんないきさつがあったそうです。
ちなみに上の動画は93年に一時的に戻ってきたエリックを加えての日本公演における模様。
お世辞にも出来が良いとは言えませんが、エリックが歌っているというだけで貴重でしょう。

さて「I’m Not in Love」というタイトルについてですが、これについては触れられることも多く
今更私が書きタレる事もないかと思いますが、一応念のため。
当時結婚して八年になるエリックは妻 グロリアから ” あなたは何故もっと愛してるって
言ってくれないの? ” と問われました。エリックは言葉にすればするほどその意味は劣化する、
という思いから口に出さないという考えでした。具体的に言えば、
ねえ?愛してる?? J(・ω・)し … あ~愛してる、すっげえ、チョ~アイシテルヨ~!(´∀`) ………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ケンカ売ってるレベルですね・・・・・
ここまではないにしろ(当たり前だ … )、口に出した途端ウソっぽくなるというのはわかります。
昨今、何でも口にしなければ伝わらない、の様な風潮があるように感じられますが、それらを全て
否定するつもりはありませんけれども、やはりむしろ口にしない方が重みを増す想いもあるのです。
唐突ですがこの歌は、史上初の ” ツンデレ ” ソングなのではないかと思っています。つまり、
(;´・ω・`;) べ、別にお前の事なんか愛してる訳じゃないからな! … か、勘違いするなよな!!
って感じでしょうか?(それも違うと思うぞ (´∀` )・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

上の動画は95年にリリースされた「Mirror Mirror」をプロモートする為に出演したテレビ番組らしいです。
本作はエリックが戻ってきて、更にポール・マッカートニーが
参加している事も話題となりましたが、
内容はエリックとグレアムが各々別々に作った作品の寄せ集め、などと評価は芳しくありません。
93年のと比べると、演奏の出来に関しては編成が異なるので一概には比較できませんが(95年の方は
エリックのエレピ、グレアムのギターそしてシンセのみ)、こじんまりした「I’m Not in Love」という
感じと、エリックの歌が二年経って少し昔を取り戻した(?)という点で個人的には95年の方がベター。

「I’m Not in Love」という曲は、元来はラテンタッチの小作品といったものであったのが、
一度はボツにされたものの奇妙なプロセスを辿って、最も酷評していたケヴィン・ゴドレイの
アイデアをはじめメンバー全員の力によって驚くほど別の姿として再生(playじゃなくてrebirthの方)を
果たします。それは全員が優れたプレイヤー(シンガー)、作曲・編曲者、そしてさらには
レコーディングエンジニアであるという特異性から生まれた、奇跡的でもありそれでいてなおかつ
必然的でもあった曲なのではないかと思っています。「I’m Not in Love」は10ccにおいては
異端の曲などと最初に述べましたが、それはそれ以前の作品と一聴して比べた時に感じるものであり、
やはり中身は10ccエッセンス・10ccスピリッツにみなぎっている曲なのです。
また ” オトナの事情 ” によりシングル化にあたって短縮させられ、ふたたび陽の目を
見ずに終わりかけたところを(短縮はBBCが要求したそうです)、本曲の魅力を理解していた
周囲がフルヴァージョンを推し進めたことで英本国、更には米及び世界へと広がったという
逆転サヨナラ本塁打のような曲です(たとえが適切じゃないかな・・・)。
本曲の良さがその様な道筋を辿らせたのだ、などと言えば文章的にはキレイにまとまるのでしょうが、
やはりそれだけではなく運もあったと思います。良いものは必ず認められるなどというのは
成功した側からの結果論に過ぎません。素晴らしい出来であったのにその時はさっぱり売れず、
後世に認められた。ヘタすりゃいまだに世に認知されていない名曲も当然たくさんあるでしょう。
と、……… これだけ伏線を張ってからあえて言いますが、やはりこの曲を埋もれさせまいとする
不思議な力、オカルトではなく人の思いの集合の様な力が「I’m Not in Love」という曲を成功に
導いたのではないかと私は思っています。

最後に余談的なエピソードですが、本曲の作者はエリックとグレアム。これだけ歴史に残って
流され続け、また取り上げられる楽曲ですので印税収入もすごい事でしょう。ロルとケヴィンは
その恩恵に与れなかったので可哀想、と思ってしまいますが実は違っており。当時バンド内では
誰が創った曲であろうと印税は四分の一ずつと取り決めをしており、二人もきちんとその分け前を
得ているようです。一人親方の集まりである様な彼ららしいエピソードです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です