#173 The Things We Do for Love

#169にて「Donna」(72年)が” 三番目くらい ” に知られる曲であろうという事は述べましたが、
では二番目は?と言うとこの曲でしょう。「I’m Not in Love」に次ぐ10ccのシングルヒットである
「The Things We Do for Love」(76年、全米5位・全英6位)です。

「I’m Not in Love」が収録されたアルバム「The Original Soundtrack」(75年)について。
とにかく「I’m Not in Love」ばかりが取りざたされるという事は既述ですが、本作も前二作と
毛色こそ違えど実験精神にあふれた作品です。
上はオープニング曲である「Une Nuit a Paris」。オペラ仕立ての様な楽曲構成である本曲ですが、
ある有名な曲と比べてしまいます、そうクイーンの「ボヘミアンラプソディー」です。
クイーンがこれにインスパイアされた、口の悪いヤツはパクったなどと色々言われています。
またクイーン擁護派はレコーディング時期がさほど変わらず制作前には聴けなかったはずだ、等々。
真相は藪の中ですが、客観的事実だけを述べると「ボヘミアンラプソディー」の録音は75年の
8月から9月、「The Original Soundtrack」のリリースは3月ですから制作前に聴く事は
出来ました。ただしフレディ・マーキュリー達が本作にヒントを得たというコメントなどは無い様です。
しかし「ボヘミアンラプソディー」には更にもう一点、声のウォール・オブ・サウンドという
「I’m Not in Love」との共通点もあります。あの有名なオペラパートにおけるコーラスの多重録音ですが、
千回以上のオーバーダビングを行ったという事ですから頭が下がります m(_ _)m
全くの私見ですが、やはりクイーンの面々あるいはプロデューサー トーマス・ベイカーは
「The Original Soundtrack」を耳にし、インスパイアされたのではないかな?と思っています。

「Blackmail」は骨のあるロックチューンでありながらファルセットヴォーカルという異色の
組み合わせで、更に(おそらくエリックの)スライドギターが映える良い意味での珍曲(?)です。
やはり普通では終わらせないこのバンドの精神がよく表れているナンバーです。

5thアルバム「Deceptive Bends」(77年)の制作過程でロル・クレームとケヴィン・ゴドレイは
脱退します。二人が抜けた事で当然の事ながらその音楽性にも変化が表れ、つまりヘンな事をする
メンバーの1/2がいなくなった事によって10ccは良くも悪くもストレートなロック・ポップスを
演る様になっていきます。上はオープニングナンバーの「Good Morning Judge」。
「The Things We Do for Love」も本作に収録された楽曲ですが、このアルバムでは四人時代の
名残を残しつつ新しい方向性を定めた礎石の様なナンバー、といった感じです。
と言っても完全に方向転換などは出来る訳もなく、やはり端々には10ccスピリットを垣間見る事が
出来ます。

本作のエンディングを飾る「Feel the Benefit」。三部構成からなるこの大作は、本アルバムにおける
ある意味一番の聴きどころです。ビートルズの「ディア・プルーデンス」か?と思わせる導入部に始まり、
ドラマティックなバラードパート、リズミックな16ビートパート、再びバラードへと戻りこのまま
大円団かと思いきや、そうは問屋は卸さずに、アグレッシヴかつブルージーなギターでフィニッシュ。
イメージは「アビー・ロード」のB面なのかな?といった感じの組曲に仕上がっています。
「オー!ダーリン」のパク …… オマージュである「ドナ」に始まり、やはりビートルズをイメージした
組曲で二人体制の門出を締める、10ccがポストビートルズ的音楽を演っていたかと言えば必ずしも
そうとは思えませんが(もっと他にいます)、その実験精神を最も継承したのはひょっとしたら
彼らだったのではないでしょうか。

唐突ですが10ccとはポップミュージックにおいて鵺(ぬえ)の様な存在ではないかと私は思っています。
この空想上の妖怪は ” つかみどころがなくて、正体のはっきりしない人物や物ごと ” を表す時に
用いられます。#169で既述ですが、R&R、ポップス、フォークロア、ハードロック、クロスオーヴァー、ラテン、アヴァンギャルド etc ….. といった節操のない音楽性を持って、悪く言えばロック・ポップスを
おちょくっているのか?と感じられなくもないその姿勢の裏側には、恐ろしいほどに真摯かつ懸命な
音楽創りへの情熱があります(良い意味で偏執的と言える程に ” フツウで終わらせない ” 姿勢が)。
普通のミュージシャンやエンジニアであれば ” そこまでやらなくても… ” といった突飛なアイデアも
何の迷いもなくトライしてみる、そういった姿勢が「I’m Not in Love」をはじめとした、それまでの
誰もが思いつかなかった様な作品を産み出していったのでしょう。

今回調べていてわかった事ですが、米でのゴールドディスクは「The Things We Do for Love」のみで、
アルバムは一枚もゴールドを獲得しておらず、「I’m Not in Love」ですら同様だったのです。
彼らの作風がアメリカでは受けなかったというのは合点がいきます。ですからレコードセールスだけを
取れば決して大成功を収めたバンドではありません。
しかし逆を言えば、その様なバンドが現在でも聴き継がれているという事実は、
決して「I’m Not in Love」の知名度のみによるものではなく(所謂 ” 一発屋 ” )、耳の肥えたリスナー達がその特異とも言える創造性を理解しているという事に他ならないのです。

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