#182 New York State of Mind

ビリー・ジョエル76年発表のアルバム「Turnstiles」について書いてきましたが、
お分かりの人には ” あの曲がヌケてねえか? ” と気づかれたかと思います。
読んでる人が ” い・れ・ば ” な・・・・・ (´∇`)

ビリーにとって、ひいてはポピュラーミュージック界において非常に重要な、
もっと具体的に言えばスタンダードナンバーと化した名曲が収録されています。
それが「New York State of Mind」です。
リズムこそはポップス的16ビートですが、曲調はジャズテイスト溢れるもので、
シナトラが歌っていても違和感が無い、というより実際に取り上げています。
今回は数えきれない程のミュージシャンにカヴァーされている本曲のみに焦点を当てます。

シナトラも歌っていましたがジャズ界ではこの人が最も良く知られる所。シナトラ同様の
大御所 メル・トーメです。彼は77年の「Tormé: A New Album」で本曲をレコーディングし、
それ以来好んでレパートリーとしていた様です。ちなみに69年以来アルバムをリリースしていなかった
トーメが久しぶりに録音したのが本作であり、表舞台へ返り咲いた作品です。

シナトラ、メル・トーメとくれば残る男性ジャズシンガーの大御所であるトニー・ベネット。
彼も本曲を歌っています。上は16年にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたビリーの
コンサートへトニーがゲスト出演した際の映像。この二週間後に90歳の誕生日を迎えるトニーの為に
ビリーが「ハッピー・バースデー」を歌ったというオマケ付き。

ビリーは本曲について、歌詞の中にある ” taking a Greyhound On the Hudson River Line ” という
状況でインスピレーションを受けたそうです。Greyhound とはバス会社の事で、つまりバスに乗って
ハドソン川沿いを進んでいる時に浮かんだとの事。家路に着いてから直ぐに本曲を書き上げたそうです。

インストゥルメンタルでも当然山の様にカヴァーされています。上はアルトサックス奏者
エリック・マリエンサル「
Got You Covered」(05年)に収録されたヴァージョン。

女性シンガーのヴァージョンも素晴らしいものが沢山あります。バーブラ・ストライサンド版が有名ですが、
個人的にはあまりピンときません(あくまで本曲に限ってですよ … )。
上はオリータ・アダムス「Evolution」(93年)に収録されたヴァージョン。歌唱・演奏・アレンジともに
文句の付け様が無く、本物の音楽とはこういうのを言うのではないかと思います。
ちなみに素晴らしいストラトキャスターでのプレイ・サウンドを聴かせてくれるのはマイケル・ランドウ。
スティーヴ・ルカサーの後輩であり、そのルカサーも認める世界屈指のセッションギタリストです。

盲目のシンガー ダイアン・シューアによる「Deedles」(84年)における本曲も秀逸です。
GRPレーベルからリリースされた本作は、80年代のジャズ・ブラックコンテンポラリーの
雰囲気がプンプン匂ってきます(良い意味でですよ)。プロデューサーは当然GRP創設者である
デイヴ・グルーシンで、テナーサックスはなんとスタン・ゲッツ。贅沢が許される時代でした。

音だけ聴けば米国のジャズフュージョン・AORにカテゴライズされるミュージシャンかと
信じて疑いませんが、実は英国人であるジョン・マークとジョニー・アーモンドから成る
マーク=アーモンドが76年に発表した「To The Heart」に収録されたもの。
この二人はなんとエリック・クラプトンが在籍した事でも有名なジョン・メイオールの
バンドで知り合った事がキッカケだそうです。

永いこと本曲を聴いてきましたが、その歌詞についてはあまり真剣に考えてきませんでした。
マイアミビーチやハリウッドという単語は聴きとれるので、ウェストコーストとN.Y. を
対比させているんだろうな、くらいでした。
” I’m in a New York state of mind ” というフレーズからして自分はN.Y. の人間だ、
という趣旨なのが間違いない事は明らかなのですが、それがN.Y. に居るシチュエーションなのか、
L.A. なのか、よくわかりませんでした。” Greyhound ” がバス会社だというのは今回初めて
知ったので、” I’m just taking a Greyhound on the Hudson River Line ” が
上記の様な意味だとは思わなかったのです(昔は調べようがなかったし、その気もなかったし・・・)。

英語に『都落ち』という概念があるかどうか知りませんが、「ピアノマン」のヒットこそあったものの、
その後自身の望む結果とは相成らず、故郷に舞い戻って書いたのが本曲、といった所でしょうか。
L.A. が決して悪いばかりの所だとは思わないけれど、やはり自分にはN.Y. の水が合っている。的な …
ちなみN.Y. もL.A. も都なので、どちらに転んでも ” 落ちる ” という事にはならない気がしますが・・・

最後は面白い動画を(笑えるという意味ではなく)。何かにつけて比較されてきたエルトン・ジョンと
文字通り顔と顔を合わせてジョイントする事となった” FACE TO FACE ” ツアーの初年である
94年におけるエルトンによる演奏。音も映像も決して良くありませんが、これは貴重なもの。
とにかくこの人は何を演ってもエルトン印にしてしまう、それはずるいほどに・・・・・・・・・・

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です