ビリー・ジョエルと言えば我が国では「素顔のままで」や「オネスティ」といったバラードが
有名であり、おのずとビリーが書く歌詞はラブソング、という印象が強いです。
しかしアルバム「ピアノマン」の回でも触れましたが(#176~177参照)、「ピアノマン」、
「さすらいのビリー・ザ・キッド」、そして「キャプテン・ジャック」といった楽曲から、
彼にはその曲の歌詞に物語を紡ぎだす傾向がありました。というよりむしろラブソングより
そっちの方が好みだったと言えます。
アルバム「ストレンジャー」のA面ラストを飾る「Scenes from an Italian Restaurant
(イタリアンレストランで)」はそれらが結実した名曲です。
前回に引き続き「イタリアンレストランで」について。
3:03辺りから始まる第四部が本曲のメインである事は衆目の一致する所でしょう。
ブレンダとエディのバラード、とでも呼ぶべき本パートは、文字通りその二人について語られます。
Brenda and Eddie were
the Popular steadys
And the king and the queen
Of the prom
Riding around with the car top
Down and the radio on.
ブレンダとエディは
人もうらやむ人気のカップル
ダンス会場じゃ
まるでキングとクイーンだった
ラジオから音を出して
オープンカーを乗り回してたよ
グルーヴィーでノリノリのミディアム16ビートで歌われる本パートは、ブレンダとエディの
華やかな様子から始まります。ここから以前と決定的に違うのは第三者の視点で語られる所。
第一部と第二部は人物が登場しその人が語り部となっています。マンガで言えば
ちゃんと姿を見せてその人物が言っている事が所謂ふきだしにセリフとして描かれているものでしたが、
第三部は語り部も登場せず、空や背景の部分に説明的に書かれる様なものです。
そしてそのマンガの内容と言えば当然ブレンダとエディが描かれている事は言うまでもありません。
このパートは長いので、以下は和訳のみを載せます。
彼らよりカッコいいのは誰もいないしパークウェイ・ダウナーじゃ
誰よりも人気者だったんだあんな生き方ができたら
他にはなにも望まないってみんなが思ってたのさ
ブレンダとエディはいつだって生き残り方を知ってるって信じてた
ブレンダとエディは75年の夏にはまだ付き合っていたんだ
そして彼らは7月の終わり頃に結婚することに決めたんだ
誰もがあいつらどうかしちゃったよって言ってたよ
“ブレンダ あんたは怠け者で主婦はできそうにない”
エディはあんな人生を送れるほど稼げてない”
でも僕らは手を振ってブレンダとエディを見送った
以上が4:10辺りまで。人もうらやむベストカップルの華やかな様子とそれを羨望のまなざしで
見守る周囲の人々。やがて勢い余って結婚すると決めた二人に周囲はまだ若すぎて無理だ、
準備が整っていないと窘めるものの、最後には彼らの結婚を見守る様子が伺えます。
ああ 彼らはふかふかのカーペットのアパートに引っ越したんだ
シアーズで買った2枚の絵画2年間節約して貯めた
なけなしのお金で買った大きなウォーターベッド
家計がきつくなってきたら彼らのけんかが始まったんだ
泣いてもかまいやしなかったんだ
上の歌詞からがBメロ。展開が変わってそのドラマも新たなシーンへ移行します。
節約していた堅実な所と、身の丈に合わない買い物をして結局は困窮する所にヘンなリアリティを
感じます。そして経済的な破綻は人間関係の破綻にも及ぶという当たり前の展開が見え始めます。
ちなみに和訳には載っていませんが、最後に ” yeah rock n roll ! ” とシャウトしています。
ここ、結構重要なポイントだと私は思っています(ノリで叫んだだけかもしれませんが・・・)。
この後の間奏でサックスソロが入るのですが、ビリー・ジョエルでサックスと言えば
「素顔のままで」におけるフィル・ウッズのプレイばかりが取り上げられがちですけれども、
ここではビリーバンドのサックス奏者 リッチー・カナータによる素晴らしいテナーが炸裂します。
上記の歌詞及びこの後の内容から考えれば、映画的に言うと本サックスソロが流れている個所の映像は
破綻へとなだれ込んでいくブレンダとエディの様子がセリフなしで描かれることでしょう。
しかし本パートにおいての曲調もそうですが、本サックスも全く悲壮感はありません。例えてみれば
乾いた客観性とでも言いましょうか、起きている事象はシリアスなのに、ノリノリでゴキゲンに
表現されています。カントリー&ウェスタンなどにこういう曲調&歌詞が多いですね。
https://youtu.be/okyI2MAe6Sc
しばらくは彼らもあこがれの暮らしをしてたわけだけど
でもいつだって最後はおなじだね彼らは当然のように離婚したんだ
近しかった友達とも疎遠になったしキングとクイーンは田舎に帰ったんだ
でも二度とあのよかった時代には戻れない
間奏の後に再びBメロが訪れ、ドラムブレイクが入るパートは一番盛り上がる箇所ですが、
皮肉にもこの場面にて二人の決定的な破綻が物語られています。
上は90年ヤンキースタジアムでのライヴ。前回上げた82年のライヴに勝るとも劣らぬ
ノリノリのパフォーマンスであり、さらに音質・画質共にこちらの方が良いのでおススメ。
前回の最後で二回に分けると言いましたが、ダメでした・・・二回でも書き切れません。
続きはまた次回にて。