今回からビリー・ジョエルを取り上げます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
前回まで10ccという、英国人らしい少し斜に構え、でありながらして非常に練り込まれた
ポップミュージックを創ったバンドを取り上げていたのに、ジャズ・R&R・R&B・ドゥーワップといった
アメリカ音楽の体現者とも言える存在であるビリー・ジョエルへなぜ話が流れるのか?
洋楽に精通している方であれば ” はは~ん、そのつながりで来たか ” とすぐにピンとくるかも
しれません。ましてやブログタイトルはビリーのデビューアルバム「Cold Spring Harbor」における
オープニングナンバー「She’s Got a Way」であるのに、初っ端の動画がそれより6年後の
「素顔のままで」なのはそれが理由。そうです、ビリーの代表曲である「素顔のままで」は
10cc「I’m Not in Love」にインスパイアされて創った曲なのです。
1stアルバム「Cold Spring Harbor」は71年の作品。とにかく鳴かず飛ばずだったのは有名ですが、
さらにオマケとしてマスタリングのミスで再生速度を速くしてしまい、ピッチ(音程)が高くなって
しまったという曰く付きです。
83年にピッチを本来のものに直して再発され面目躍如と相成ります。日本では永らく廃盤だった
本作が再発されたのもこのタイミングでした。私が洋楽を聴き始めたのがちょうどこの頃なので
よく覚えています。
「She’s Got a Way」は多くのリスナーが81年のライヴ盤「Songs in the Attic」、
あるいはそれを収めたベストアルバム「Greatest Hits –Volume I & Volume II」(85年)で
本曲を知った事と思います(勿論私も)。10余年を経て世間に認知される事となった本ナンバーは、
最初の妻であるエリザベスを歌ったもの。
#169にて「Donna」(72年)が” 三番目くらい ” に知られる曲であろうという事は述べましたが、
では二番目は?と言うとこの曲でしょう。「I’m Not in Love」に次ぐ10ccのシングルヒットである
「The Things We Do for Love」(76年、全米5位・全英6位)です。
「I’m Not in Love」が収録されたアルバム「The Original Soundtrack」(75年)について。
とにかく「I’m Not in Love」ばかりが取りざたされるという事は既述ですが、本作も前二作と
毛色こそ違えど実験精神にあふれた作品です。
上はオープニング曲である「Une Nuit a Paris」。オペラ仕立ての様な楽曲構成である本曲ですが、
ある有名な曲と比べてしまいます、そうクイーンの「ボヘミアンラプソディー」です。
クイーンがこれにインスパイアされた、口の悪いヤツはパクったなどと色々言われています。
またクイーン擁護派はレコーディング時期がさほど変わらず制作前には聴けなかったはずだ、等々。
真相は藪の中ですが、客観的事実だけを述べると「ボヘミアンラプソディー」の録音は75年の
8月から9月、「The Original Soundtrack」のリリースは3月ですから制作前に聴く事は
出来ました。ただしフレディ・マーキュリー達が本作にヒントを得たというコメントなどは無い様です。
しかし「ボヘミアンラプソディー」には更にもう一点、声のウォール・オブ・サウンドという
「I’m Not in Love」との共通点もあります。あの有名なオペラパートにおけるコーラスの多重録音ですが、
千回以上のオーバーダビングを行ったという事ですから頭が下がります m(_ _)m
全くの私見ですが、やはりクイーンの面々あるいはプロデューサー トーマス・ベイカーは
「The Original Soundtrack」を耳にし、インスパイアされたのではないかな?と思っています。
5thアルバム「Deceptive Bends」(77年)の制作過程でロル・クレームとケヴィン・ゴドレイは
脱退します。二人が抜けた事で当然の事ながらその音楽性にも変化が表れ、つまりヘンな事をする
メンバーの1/2がいなくなった事によって10ccは良くも悪くもストレートなロック・ポップスを
演る様になっていきます。上はオープニングナンバーの「Good Morning Judge」。
「The Things We Do for Love」も本作に収録された楽曲ですが、このアルバムでは四人時代の
名残を残しつつ新しい方向性を定めた礎石の様なナンバー、といった感じです。
と言っても完全に方向転換などは出来る訳もなく、やはり端々には10ccスピリットを垣間見る事が
出来ます。
今回調べていてわかった事ですが、米でのゴールドディスクは「The Things We Do for Love」のみで、
アルバムは一枚もゴールドを獲得しておらず、「I’m Not in Love」ですら同様だったのです。
彼らの作風がアメリカでは受けなかったというのは合点がいきます。ですからレコードセールスだけを
取れば決して大成功を収めたバンドではありません。
しかし逆を言えば、その様なバンドが現在でも聴き継がれているという事実は、
決して「I’m Not in Love」の知名度のみによるものではなく(所謂 ” 一発屋 ” )、耳の肥えたリスナー達がその特異とも言える創造性を理解しているという事に他ならないのです。
上は「I’m Not in Love」のシングルヴァージョンで、6分以上あった原曲を3分40秒程に
短縮したもの。日本版ウィキでは短縮版は米向けで英版はフルサイズとありますが、実際は英でも
短縮版でリリースされ、その時はチャートで28位とあまり奮わなかったらしく、その後に
ファンやプレス連中の要求からフルサイズをラジオで流すようになった所、見事全英No.1を獲得します。
米でも最高位2位を記録しバンド最大のヒットとなりました。ちなみに1位を阻んだのはヴァン・マッコイ
「ハッスル」やイーグルス、ビージーズといった強者達でタイミングが悪かったとしか言い様がありません。
それにしても当時の編集技術では致し方ないとは言え、3:18の処理は残念過ぎます・・・・・
https://youtu.be/Ki78MK9JywE 前回で「I’m Not in Love」とは10ccにおいて異端の曲だ、などとほざきましたが、
やはりポップミュージック史に残る名曲であることは間違いありません。
で、今回のブログは丸々「I’m Not in Love」尽くしとします。
今回はおフザケも噛まさず、ボケもないです。かなり真面目にこの偉大なる楽曲を自分なりに
掘り下げます。
(ボケ? オメエ今まで全部スベってたの気づいてねえのか? (´∀` ) …… ハイ!おフザケ終わり)
「I’m Not in Love」は3rdアルバム「The Original Soundtrack」のA面2曲目に収録されています。
サウンドトラックと銘打っていても別に何かの映画のそれという訳ではなく、架空のサントラといった
設定です。本作全体については次回以降で触れます。
75年にリリースされた本曲の制作はその前年に始まります。きっかけはエリック・スチュワートが
書いた素材。「I’m Not in Love」という印象的なタイトル(歌詞)は後述しますが、妻とのやり取りから
思いついたというのは結構有名な話しです。
既に曲の骨格は出来上がっていたらしくスタジオへ行きグレアム・グールドマンに助力を乞います。
本曲ではフェンダーローズ(エレクトリックピアノ)があまりにも印象的な為に信じられないのですが、
実は当初エリックとグレアム共にギターで本曲を練り上げていたそうです。そしてまたまた
信じられない事に、初めはアップテンポのボサノヴァ調であったとか。
08~09年だったと思いますが、BS-TBSで放送されていた『SONG TO SOUL』にて
本曲が取り上げられています。録画して何回も観ましたが非常に興味深い内容でした。
今回のブログはその記憶と(消さなきゃよかった … )、ネット上における多くの方々の文章
(やはり『SONG TO SOUL』を観ていた人が多いです)、そして英語版ウィキが基になっています。
グレアムはそのメロディから違うコードを提案し、またイントロとブリッジセクション( ” ~ Ooh, you’ll wait a long time for me. ~ ” のパートだと思われます)を思いついたそうです。
2~3日間で曲を書き上げ、ギター・ベース・ドラムという普通の編成で前述の通りボサノヴァのリズムで
演奏してそれを録音しました。しかし出来上がったものはロルとケヴィンのお気に召さないものでした、
特にケヴィンにとって。ケヴィンはこう言いました ” これはゴミだよ ” 、と。
バンド内ではこの様なディスカッションというか批判は珍しくなく(バンド内が必ずしも円滑でなかったのは
前回で触れた通り)、エリックが ” OK。じゃあこれを良くする為に何か付け加えるものなど、何らかの
建設的な意見は?” と問うとケヴィンは更にこき下ろします。” No!ただのゴミだよ!どうしようもない、
やめよう!” と、身も蓋もない言い方で締めてしまいます。よほど気に食わなかったのか、それとも
この時期にエリックとの間に感情的な何かがあったのかはわかりかねますが、皆はそれに同意し、
デモテープも消去してしまったそうです。
『SONG TO SOUL』ではエリックの記憶を頼りに再現した当初のボサノヴァ調「I’m Not in Love」が
流れました。確かに「I’m Not in Love」には違わないのですが、リズムとアレンジが異なると
まるで別の曲です(当たり前ですね)。ジャズ界には ” ジャズに名曲なし、名演あるのみ ” という言葉が
あります。どれだけジャズという音楽がプレイヤーの力量に因る所が大きいかを示した言葉ですが、
私はロック・ポップスにおいても、ジャズほどではないにしろこれが当てはまると思っています。
誰がどんな風に演奏しても(歌っても)絶対的に名曲になるものなどはありません。一般的には
特に歌い手による差が大きいと思われがちですが(古今東西問わず音楽とは九割方がメインの歌しか
聴いていないものですから)、アレンジも曲を決定づける重要な要素です。どんな名曲もアレンジ次第では
駄作になってしまうのです。もっともボサ「I’m Not in Love」はそこまで酷くはなかったですが・・・
マイク・ラザフォードのソロプロジェクトであるマイク & ザ・メカニックスは現在まで息の永い
活動を続けています。上は1stアルバム「Mike + The Mechanics」(85年)よりシングルである
「All I Need Is A Miracle」。全米5位の大ヒットとなりバンドは華々しい門出を迎えます。
バンドとして最大のヒットは2ndアルバムからのシングルである「The Living Years」(89年)。
全英2位・全米1位を記録しマイク & ザ・メカニックスはそのキャリアにおいて頂点を極めます。
どちらもかなり80年代的アメリカナイズされた楽曲に聴こえます。時代のすう勢というものも
勿論あったのでしょうが、マイクの作風が元々こういうポップセンス溢れるものだったのだと
私は思っています。
https://youtu.be/cHWJ-7BUCNg 上はフィルによるヒット曲としては最新(最後)と言える「You’ll Be in My Heart」(99年)。
ディズニーアニメの主題歌として有名ですが、その歌唱スタイルはエンディング部を除いて
かなりソフトなものです。#164でフィルの真骨頂は絶唱型のバラードだと述べましたが、
フィル自身は元来この様な歌い方が好きなのかもしれません。もう一つの動画は#160でも触れた
フィルが初めてリードヴォーカルを担った「怪奇骨董音楽箱」に収録された「For Absent Friends」。
70年代後半から80年代はシャウトをよく用いていましたが、初めて世にお披露目された歌と
最後のヒット曲は、当然声質の変化はありこそすれ、実は共通しているのではないかと思っています。