爆発的な成功を収めたミュージシャンが次にどうでるか?
その成功がミュージシャン本来のスタイルであったならば、基本的に前作を踏襲した新作を
創るでしょう。あえて奇をてらう必要は全くありませんから。
しかしなかには爆売れした前作とは打って変わった作品を創り、良い意味で世間を裏切り、
予想の斜め上を行ったミュージシャンもいます。
「アンプラグド」第二弾の様なアルバムを作れば、再度のビッグセールスは間違いなかったのに、
あえてそれをしなかったエリック・クラプトン(#11ご参照)。
同じように「パープル・レイン」のメガヒット後に、当時全く流行の予兆もなかったサイケデリック色を
前面に打ち出した「Around the World in a Day」という傑作アルバムでこれまた世間を
あっと言わせたプリンス(#51ご参照)など。
アルバム「ストレンジャー」が空前の大ヒットとなったビリー・ジョエルははたして?
ビリーにとって最初のヒット作「ピアノマン」の次作である「ストリートライフ・セレナーデ」が、
制作期間の短さから(11か月)、決してそのクオリティーにおいて十分でなかったのは既述ですが、
十分な期間が与えられなかったのは、「ストレンジャー」の次作である「52nd Street
(ニューヨーク52番街)」についても同様でした(13か月)。ではその出来栄えはというと・・・
第四部は上の様な歌詞にて締めくくられます。注目すべきはここでは ” 僕が ” つまり ”I” という
単語が用いられ一人称の語りになっていることです。それまで語り部が現れず説明的に述べられて
いたのが最後になって登場し、手を振って終わりにしよう、となっています。
そして勿論 ” Brenda And Eddie goodbye ” というフレーズが最初のAメロの終わりと
対を成しています。もう少し詳しく言うと初めが無茶を押して結婚する彼らに、
But there we were wavin’ Brenda and Eddie goodbye.
(でも僕らは手を振ってブレンダとエディを見送った)
だったのに対して最後が
And here we are wavin’ Brenda And Eddie goodbye.
(さあこのへんでブレンダとエディに手を振ってこの話を終わりにしようじゃないか)
と見事にコントラストを成しています。
楽曲及び演奏面も秀逸で、特に後半におけるベースのオフビート、所謂裏打ちが
この上なく見事です。全然ハッピーな結末ではないのに高揚させてくれちゃってます。
https://youtu.be/CRZsMrQSe4s
A bottle of reds, ooh a bottle of whites Whatever kind of mood you’re in tonight I’ll meet you anytime you want In our Italian Restaurant 赤ワイン ああ それとも白ワイン 今夜はどんな気分なんだい? きみが好きなときに いつだって会いに来るよ あの僕らのイタリアン・レストランで …
ビリー・ジョエルと言えば我が国では「素顔のままで」や「オネスティ」といったバラードが
有名であり、おのずとビリーが書く歌詞はラブソング、という印象が強いです。
しかしアルバム「ピアノマン」の回でも触れましたが(#176~177参照)、「ピアノマン」、
「さすらいのビリー・ザ・キッド」、そして「キャプテン・ジャック」といった楽曲から、
彼にはその曲の歌詞に物語を紡ぎだす傾向がありました。というよりむしろラブソングより
そっちの方が好みだったと言えます。
アルバム「ストレンジャー」のA面ラストを飾る「Scenes from an Italian Restaurant
(イタリアンレストランで)」はそれらが結実した名曲です。
Brenda and Eddie were the Popular steadys And the king and the queen Of the prom Riding around with the car top Down and the radio on. ブレンダとエディは 人もうらやむ人気のカップル ダンス会場じゃ まるでキングとクイーンだった ラジオから音を出して オープンカーを乗り回してたよ
「Scenes from an Italian Restaurant(イタリアンレストランで)」。A面ラストに収録された
7:37に渡る長尺の本曲は、シングルカットされたわけでもなく、映画のサントラに使用されたという
わけでもなく(多分)、それでいてビリーファンはもとより、それ以外のリスナーからも長きに渡って
愛され続けているナンバーです。
A bottle of white, a bottle of red Perhaps a bottle of rose instead We’ll get a table near the street In our old familiar place You and I face to face 白ワイン 赤ワイン それとも代わりに ロゼもどうだい? お馴染みの店の 窓際の席に座ろうか きみと僕 顔と顔を見合わせて
A bottle of red, a bottle of white It all depends upon your appetite I’ll meet you any time you want In our Italian Restaurant. 赤ワイン 白ワイン きみが飲みたい方にするよ きみが望めばいつだって会いに来る 僕たちのお決まりの場所 このイタリアン・レストランでね
Things are okay with me these days I got a good job, got a good office I got a new wife, got a new life And the family’s fine We lost touch long ago You lost weight I did not know You could ever look so nice after so much time. 僕も最近 うまくやっているよ いい仕事 いい職場に出会えたんだ いいかみさんを見つけ 新しい生活をしているよ 家族もみんないい人たちさ ずいぶんと会ってなかったね 痩せたことも知らなかったし 長い時を経て とってもきれいになったんだね
Do you remember those days hanging out at the village green Engineer boots, leather jackets And tight blue jeans Drop a dime in the box play the song about New Orleans Cold beer, hot lights My sweet romantic teenage nights あの頃のこと 覚えてる? ちっちゃな公園をぶらぶらしてた 工場の安全靴 革ジャン タイトなブルージーンズを履いて ジュークボックスにコインを入れて ニュー・オーリンズの歌をかける 冷たいビール 熱いライト 10代の夜はとてもロマンチックだった
ラモーンがビリーの言い分を無条件で通した訳では無い事は「Just the Way You Are」の回で
既述した通りです。ラモーンが良いと思ったものは押し通し、それが結果的に本アルバムを傑作へと
導いたのです。ビリー一人では成し得なかったというのも前回で述べた事。
しかしながらビリーとジョージ・マーティンの共同作業も聴いてみたかった、という思いもありますが・・・
上はラテンフレーバーの「Get It Right the First Time」。アルバム中に少なくとも一曲は
ラテンタッチの楽曲を入れるのがビリーのモットーだったようです。ノリノリの歌いっぷりが見事。
アルバムラストを飾る「Everybody Has a Dream」。ソウル・ゴスペルといった黒人音楽への
リスペクトもビリーの中にはしっかりあります。というか、前にも書きましたけど白と黒、米と欧などの
区別はこの人にはあまりなく、良ければ何でもイイ、というポジティヴな無節操が感じられます。
「Just the Way You Are」のシングルヒットと共に本アルバムも爆発的な売れ行きを記録します。
リリースから3か月後の77年12月にはゴールド、翌年1月にはプラチナに認定されるという、そのセールスは
驚異的なスピードを見せます。ちなみに03年にはダイアモンドを獲得、すなわち全米にて1000万枚以上の
売上を達成したと認定されました。ベスト盤を除くとビリーの作品中最も売れたアルバムです。
「Just the Way You Are」及び本アルバムからビリーの超絶ブレイクが始まる訳ですが、
それはまた次回以降にて。
少し横道に逸れますがフィル・ウッズつながりで。「New York State of Mind」回(#182)で
触れるのを忘れてしまいましたが、初出と85年の二枚組ベスト盤ではサックスが異なります。
つまり85年ベスト盤にてサックスが差し替えられたという事ですが、それがフィル・ウッズだと
言われています。ただこれも根拠は定かではありません。
歌のメロディをなぞったソロを展開する初出版に対して、85年版はかなり自由なプレイです。
聴き比べるのもご一興。
10ccの「I’m Not in Love」が実は一度ボツにされた、といういきさつは#170で書きました。
ポップミュージック史に残る名曲が、下手をすれば陽の目を見ていなかったというのは驚きです。
そしてまた、ある名曲も最初は創った当人が世に出すつもりではなかったというのも、
まるでドラマの様な話です。
その名曲と「I’m Not in Love」との関係性も#174にて触れています。
” 僕を喜ばせようとして、新しいファッションや髪の色をかえたりしないで、そのままの君が好きなんだ ”
普通の状況で言ったらアタマがどうかしたのか?と疑われる様な言葉も、この稀代の名曲に乗せると
何ら違和感が無くなるから不思議です。勿論その曲とはビリー・ジョエル「Just the Way You Are」。
一つ目ははじめに触れた「I’m Not in Love」によってインスパイアされたサウンド創り。
バックで流れるヴォーカルのテープループは「I’m Not in Love」に触発されたもので、
それはビリーのアイデア及び要求だったのでしょうが、具現化したのはラモーンの力量です。
今でこそ声を重ねまくってあのサウンドを創ったというのは皆が知るところですが、
当時は情報も少なくメロトロンでは?などと憶測が飛び交っていた状況だったので、
ヴォーカルのダビングとそれをルーピングする事によってあの音が得られるという事実を見抜いたのは、
百戦錬磨のエンジニアであったラモーンの力によるものでしょう。
「I’m Not in Love」から触発されたのはエレクトリックピアノのサウンドも同様です。
フェンダーローズによる独特の浮遊感がどちらの曲にとっても素晴らしい効果を挙げています。
このプレイがリチャード・ティーによるものだという記述がいくつか見られますが、クレジット上では
アルバム最後の曲「Everybody Has a Dream」でオルガンを弾いているのみとなっており、
本曲でのローズピアノはビリー本人とクレジットされています。でもティーのプレイに聴こえなくも …
ビリーにとって、ひいてはポピュラーミュージック界において非常に重要な、
もっと具体的に言えばスタンダードナンバーと化した名曲が収録されています。
それが「New York State of Mind」です。
リズムこそはポップス的16ビートですが、曲調はジャズテイスト溢れるもので、
シナトラが歌っていても違和感が無い、というより実際に取り上げています。
今回は数えきれない程のミュージシャンにカヴァーされている本曲のみに焦点を当てます。
シナトラも歌っていましたがジャズ界ではこの人が最も良く知られる所。シナトラ同様の
大御所 メル・トーメです。彼は77年の「Tormé: A New Album」で本曲をレコーディングし、
それ以来好んでレパートリーとしていた様です。ちなみに69年以来アルバムをリリースしていなかった
トーメが久しぶりに録音したのが本作であり、表舞台へ返り咲いた作品です。
ビリーは本曲について、歌詞の中にある ” taking a Greyhound On the Hudson River Line ” という
状況でインスピレーションを受けたそうです。Greyhound とはバス会社の事で、つまりバスに乗って
ハドソン川沿いを進んでいる時に浮かんだとの事。家路に着いてから直ぐに本曲を書き上げたそうです。
インストゥルメンタルでも当然山の様にカヴァーされています。上はアルトサックス奏者
エリック・マリエンサル「Got You Covered」(05年)に収録されたヴァージョン。
音だけ聴けば米国のジャズフュージョン・AORにカテゴライズされるミュージシャンかと
信じて疑いませんが、実は英国人であるジョン・マークとジョニー・アーモンドから成る
マーク=アーモンドが76年に発表した「To The Heart」に収録されたもの。
この二人はなんとエリック・クラプトンが在籍した事でも有名なジョン・メイオールの
バンドで知り合った事がキッカケだそうです。
永いこと本曲を聴いてきましたが、その歌詞についてはあまり真剣に考えてきませんでした。
マイアミビーチやハリウッドという単語は聴きとれるので、ウェストコーストとN.Y. を
対比させているんだろうな、くらいでした。
” I’m in a New York state of mind ” というフレーズからして自分はN.Y. の人間だ、
という趣旨なのが間違いない事は明らかなのですが、それがN.Y. に居るシチュエーションなのか、
L.A. なのか、よくわかりませんでした。” Greyhound ” がバス会社だというのは今回初めて
知ったので、” I’m just taking a Greyhound on the Hudson River Line ” が
上記の様な意味だとは思わなかったのです(昔は調べようがなかったし、その気もなかったし・・・)。
英語に『都落ち』という概念があるかどうか知りませんが、「ピアノマン」のヒットこそあったものの、
その後自身の望む結果とは相成らず、故郷に舞い戻って書いたのが本曲、といった所でしょうか。
L.A. が決して悪いばかりの所だとは思わないけれど、やはり自分にはN.Y. の水が合っている。的な …
ちなみN.Y. もL.A. も都なので、どちらに転んでも ” 落ちる ” という事にはならない気がしますが・・・
https://youtu.be/Smxc0Haz5ns 最後は面白い動画を(笑えるという意味ではなく)。何かにつけて比較されてきたエルトン・ジョンと
文字通り顔と顔を合わせてジョイントする事となった” FACE TO FACE ” ツアーの初年である
94年におけるエルトンによる演奏。音も映像も決して良くありませんが、これは貴重なもの。
とにかくこの人は何を演ってもエルトン印にしてしまう、それはずるいほどに・・・・・・・・・・
A-③である「All You Wanna Do Is Dance」はスカのリズムを取り入れたナンバー。
初期からラテンを含めたワールドミュージックへ視点が向いていた事は既述です。
「James」は1stを思わせる内省的な曲調。音楽性は簡単に変わらないというのも既述。
のっけからそのピアノテクニックに圧倒される「Prelude/Angry Young Man」。
前作における「Root Beer Rag」と同様にプレイヤーとしてのビリーをフィーチャーした
楽曲ですが、「Root Beer Rag」は楽曲ストックの少なさから苦肉の策で収録したと
言われていますが、本曲はイントロ後の本編と呼べる ” Angry Young Man ” への
移行も見事であり、きちんと練り込まれたナンバーです。
エンディングナンバーである「Miami 2017」には ” Seen the Lights Go Out on Broadway ” と
副題が付いています。81年のライヴ盤「Songs in the Attic」ではオープニングに収録されている本曲は、
その快活なロックチューンの印象とはかけ離れた歌詞(イントロのサイレン音が象徴的)。
アメリカが混乱に陥り、ブロードウェイの灯は消え、エンパイアステートビルは崩れ落ちて橋は朽ち、
人々はニューヨークを去って南へ行ってしまうという近未来ディストピアSFといった内容。
2017年のマイアミで語り部はニューヨークを回想するというストーリーは、
9.11テロを予言しているとか一部オカルトマニアが騒いでいたらしいですが、
それはお好きな人で勝手にどうぞ(その2017年も既に過ぎてしまいましたが … )。