#117 Talking Book

ジェフ・ベックについてはこのブログの初期において取り上げましたが(#5~#7)、
とにかくこの人は子供の様な人なのだそうです。「迷信」をめぐるスティーヴィー・ワンダーと
ジェフの確執についてはよく知られた所ですが、かいつまんで言うと、「迷信」は「トーキング・ブック」においてプレイしてくれたお礼としてジェフのために書いた曲で、72年の夏頃にはジェフは既にバンドで
演奏しており、シングルとしてのリリースも考えていたそうです。ところがスティーヴィーの
前作「心の詩」がセールス的には(60年代と比較して)今一つだった事から、マネージメントサイドが
強引に第一弾シングルとして発売し、あろうことかそれがNo.1ヒットとなってしまい、
ジェフは『スティーヴィーの野郎!オレの為に書いたと言ってたくせに!!』と激怒したとか。
スティーヴィーも意に沿わぬ形でリリースされてしまったもので、ジェフに対しては申し訳ないと
謝辞を述べたと言われています。なのでそこまで怒ることもないとは思うのですが・・・
前回たまたま三大ギタリストという単語が出ましたが、残る二人、ジミー・ペイジはしたたかというか
狡猾というか、失礼を承知で言えば悪魔的な人物で、愛人二人がホテルで鉢合わせしてしまった際、
取っ組み合いのケンカを始めた彼女たちをニヤニヤしながら眺めていたとか・・・
エリック・クラプトンはとにかく神経の細い人で、すぐに酒とドラッグに逃げてしまい、また女性に
対してとにかくルーズであったとか・・・あれ!一人としてちゃんとした人間がいない!!∑(゚ロ゚〃)
今回の枕はこんなしょうもない話から・・・・・

全米No.1シングル「You Are the Sunshine of My Life(サンシャイン)」をオープニングナンバーと
するアルバム「Talking Book(トーキング・ブック)」(72年)。言わずと知れた大ヒット作であり、
スティーヴィーの黄金期は本作から始まったと、一般的には言われる作品です。
前作「心の詩」と同時期には既に録られていたとされる「サンシャイン」。バックヴォーカルを務めていた
男女のシンガーによるパートを一聴するととても心地よいポップな曲調ですが、スティーヴィーのパートに
入ると様子が変わってきます。動的なリズム・サウンドになり、快適さと躍動感が同居する如何とも
形容しがたい稀有なナンバーです。ちなみに自身でプロデュースするようになってからは殆どが自らの
シンセベースでしたが、本曲に限っては弦のベースです(セッションベーシストによる)。
決してシンセベースが悪いという訳ではありませんが、ボサノヴァ的なこの曲のグルーヴは、
やはりシンセでは不可能と判断したのかもしれません。

ジェフ・ベックとのいわくについては既述の「Superstition(迷信)」。「フィンガーティップス」
以来の全米1位を記録した本曲は今更説明不要なほどの代表曲ですが、このファンキーなグルーヴは
何百回聴いてもたまりません。

そのジェフの為に「迷信」を書くキッカケとなった曲が上の「Lookin’ for Another Pure Love」。
本曲ではジェフのみならずバジー・フェイトンもギターで参加しています。そのキャリアとしては
ラスカルズのリードギタリストとして有名なフェイトンは、前作「心の詩」に収録の
「スーパーウーマン」にて素晴らしいプレイを披露しています。間奏のソロはジェフだというのは
よく言われる事でそれは間違いないと思いますが、歌のパートから既に右・左チャンネルにて
それぞれギターが聴こえます。正直どちらがどちらかは判別が付きかねます(ギターソロは
センターに定位されていますので)。そのギターソロはジェフ節満開、といったプレイ。
”トュルルトュルルトュルルトュルル・・・”といったトリルの連続はジェフの十八番。
1:58~59にて ”Yeah!Jeff!!” とスティーヴィーの掛け声が聴こえます。そうすると
メインの歌とジェフのソロは一緒に録ったのかな?と推察も出来る所ですが真相は?・・・
「迷信」の件の埋め合わせとして「ブロウ・バイ・ブロウ」にて「哀しみの恋人達」と他一曲を、
ジェフの為に提供したのは結構知られた話です。

シリータ・ライトとは72年の春頃に離婚しています。「Tuesday Heartbreak」はシリータとの
別れについて書かれた曲だと言われています。離婚後もかなりの期間において、関係は続いて
いたとされる二人ですが(音楽面、また ”それ以外” においても)、本曲では女性が新しい恋人を
作ったからという一節がありますけれども事実は異なる様で、スティーヴィーも異性関係は
かなり派手だったそうなので、”どっちもどっち” というのが真相の様です。
また本曲ではデイヴィッド・サンボーンが参加しています。当時はまだそれほどビッグネームでは
なかったと思いますが、バジー・フェイトンと共にポール・バターフィールド・バンドに
在籍していた事があるので、そのつながりだったのかもしれません。その後ジャズ・フュージョン界を
代表するアルトサックス奏者となるサンボーンですが、意外にも出発点はブルースのバンドだったのです。
彼についてよく言われる ”泣きのサックス” というのは、その辺りに起因するのかもしれません。

スティーヴィーの独唱・独演による「You and I 」。前回、「心の詩」の「Seems So Long」にて、
バラードのスタイルが出来上がった、と述べましたが。本曲はそれの先ず最初の完成形にて大名曲。
ファンキーでグルーヴィーなチューン、爽やかなポップソング、スリリングなクロスオーヴァー的
16ビート、それまでのポップスの枠に当てはまらない斬新な楽曲、彼はどの様なスタイルでも
創りこなしてしまうソングライターですが、バラードというのが一つの重要な要素であるのは
間違いない所です。私は本曲を含めスティーヴィーの ”三大バラード” があると思っています
(後の二つはいずれ)。このようなメロディックな曲はシンプルにピアノだけで良く、シンセは
不要なのではと普通は思ってしまいますが、これに関してはシンセが無ければ成立していなかったでしょう。
はじめに独唱といった通り、バックコーラスは無く、その代わりを担っているのがシンセであり、
所謂オブリガード、裏メロ的な使われ方です。これが人の声だったとしたならば、スティーヴィーの
エモーショナルな歌がスポイルされていたのでは、と私は思っています。本曲を音楽的に解説している
サイトが幾つかありますので、メロディ・コードの展開などを詳しく知りたい方はそちらを参照して下さい。本曲の素晴らしさについて衆目が一致する所はエンディング部のヴォーカルです。それまでの抑制が
効いた歌は、全てがこのパートへ帰結するためのものだと言えます。

全曲について述べたいところですが、きりがないのでこの辺で。

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