#132 Donny Hathaway

ピーター・バラカンさんが以前ラジオで、ダニー・ハサウェイとスティーヴィー・ワンダーは
歌唱スタイルが似ていると常々思っていたが、ある日スティーヴィーのコメントの中で
ダニーの歌い方を真似た、の様な内容を読んで納得がいったと語っていました。
確かに二人の歌い方には似たところがあります。若き日のスティーヴィー(二十歳前後)が
自身のスタイルを確立する上でお手本にしたのがダニー・ハサウェイだったのです。

2ndアルバム「Donny Hathaway」(71年)。自身の名を冠した本作はプロデューサーに
ジェリー・ウェクスラーとアリフ・マーディンの二人、アトランティックレコードの要人達が
名を連ねています。1stは決してセールス的に成功したアルバムではありませんでしたが、
それでもこの会社の力の入れ様からして、いかにダニーを買っていたかがわかります。
オープニングナンバー「Giving Up」はヴァン・マッコイの作。「ハッスル」が余りにも
有名すぎてディスコの立役者、という印象ばかりが先走ってしまいますが、「ハッスル」以前は
ブラックミュージック界を作曲・プロデュースによって裏方で支えていた人です。
今回調べていて初めて知ったのですが、実はダニーと共通点が多いのです。幼いころ聖歌隊で
歌っていた(もっともこれは黒人シンガーでは珍しくないのですが)、ハワード大学に入学して
どちらも中退、そして亡くなったのも同じ79年です(ただの偶然ですけどね・・・)。
胸が締め付けられる程切ないのダニーの歌、サックスソロは師匠的存在であったキング・カーティス。

本作において最も知名度のある曲がA-②「A Song for You」でしょう。奇才(鬼才)レオン・ラッセル
による余りにも有名なナンバー。有名すぎるので詳しくは割愛しますが、全てのヴァージョンを聴いた
訳ではないのですが(200人以上にカヴァーされているので聴けるはずありません・・・)、
本曲の解釈として最も秀逸なテイクの一つと言って間違いないでしょう。

A-③「Little Girl」は ” 5人目のビートルズ ” として知られるビリー・プレストンの楽曲
(もっともこの言い方はビートルズとの活動以外を認めていない様でプレストンにとって非礼なのですが)。
オルガンはプレストンかと思いきやダニー本人、チャック・レイニーのベースも印象的です。

「He Ain’t Heavy, He’s My Brother(兄弟の誓い)」は英国バンド ホリーズで有名な曲ですが、
ダニーの手に掛かるとダニーの曲となってしまいます。「ふられた気持」「ミスティ」なども
そのオリジナリティー溢れた解釈は、どうしてこういう発想が生まれるんだろうと感服する限りです。
ダニーもロバータ・フラックも他人の曲を絶妙かつ、目からウロコ的にアレンジする天才ですが、
これはジャズメンの発想でしょう。オリジナルを書いて自身のそれが売れるのは勿論、他人にもカヴァーされ
印税がガバガバ入った方が儲かるのは明らかなのですが、それにはあまり興味がなかったのでしょうか?

「I Believe in Music」はカントリーシンガー マック・デイヴィスの曲。カントリーもダニーに
かかればソウルになる、と思いきや、原曲からしてかなり黒っぽいものでした。不勉強で
マック・デイヴィスに関しては全く知識が無いので他の曲も同様なのかはわかりませんが、
かなりソウルフルな歌い方をする人であり、コーラスもゴスペル風のもの。
ダニー版もそれを踏襲していて、つまり本曲はオリジナルのテイストを尊重しているのです。
ダニーはいたずらに奇抜なアレンジをしている訳ではなかったという事です。

エンディングナンバー「Put Your Hand in the Hand」。カナダ人ソングライター ジーン・マクレランに
よる本曲は、同じくカナダのバンド オーシャンにより全米2位まで昇った曲(ちなみにトップを阻んだのは
スリー・ドッグ・ナイトの「ジョイ・トゥ・ザ・ワールド」)。ゴスペルテイストのカントリー、とでも
形容出来る本曲は、ダニーの手によって見事なゴスペルソングに仕立て上げられています。

先述した事ですが、如何にアトランティックによるダニーへの期待が大きかったかが伺い知れます。
既に挙げたキング・カーティスやチャック・レイニーの他にも、ギターにコーネル・デュプリー
(昔キング・カーティスバンドにいた関係かも?ちなみにその当時にはジミヘンも在籍。#43ご参照)、
ドラムはブッカー・T &The MG’sでの活躍が有名なアル・ジャクソン。ブラックミュージック特集
第1回目のアル・グリーン「Let’s Stay Together」も彼によるプレイですが(#101ご参照)、
無駄な音を排した究極のシンプル、とも言えるドラミングは現在でも賞賛され続けています。
本作はポップスチャートでは89位と前作同様に奮わなかったのですが、R&Bでは6位に
チャートインし、黒人層への支持を着実に得つつありました。
そしてロバータ回へと繋がるのですが、その辺りはまた次回にて。

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