#143 Try a Little Tenderness

前回「I’ve Been Loving You Too Long(愛しすぎて)」をあげた際にさらりと述べましたが、
モントレー・ポップ・フェスティバルという67年に行われた有名なコンサートに
オーティス・レディングも出演しました。ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンの回でも
当コンサートについては触れました。それまで無名の存在であったジミヘンとジャニスを
一夜にしてスターダムにのし上げた伝説的なステージ。二人のパフォーマンスが聴衆の度肝を
抜いた事に間違いはないのですが、実は最もオーディエンスを熱狂させたステージは
オーティスのものであったと、コアな音楽ファンの間では語り草となっています。

黒人層においては不動の人気を固めていたオーティスですが、こと一般白人リスナーの間では
まだまだその知名度は低いものでした。時代背景が全く違うので、私が経験した80年代以降では
考えられないことですが、白人層はソウルを聴くなど以ての外(一部のファンを除いて)、
という風潮だったそうです。しかしオーティスのステージはそれを見事に吹き飛ばしてしまいました。
上はその中の一曲「Try a Little Tenderness」。一聴瞭然です、このステージで熱くならない
音楽ファンなどいないでしょうから。

時系列的には少し遡りますが、66年には4thアルバム「The Soul Album」をリリース。
上はオープニング曲である「Just One More Day」。静かなギターのアルペジオから
徐々に盛りあがりを見せるスタイルはオーティス及び演奏とソングライティングを担った
スティーヴ・クロッパーの十八番と言えるでしょう。

同年10月にもアルバムを発表します。「Complete & Unbelievable: The Otis Redding
Dictionary of Soul(ソウル辞典)」のオープニング曲「Fa-Fa-Fa-Fa-Fa (Sad Song)」は
代表曲の一つであり、本曲もオーティスとクロッパーの共作です。

これも有名なやつですがビートルズ「Day Tripper」。ジョンやポールが黒人音楽に熱中していた事は
あまりにも有名ですけれども、「デイ・トリッパー」は本来「ラバー・ソウル」に
収録されるはずだったとかでないとか … ビートルズファンや洋楽通には今更なエピソードですが、
「Rubber Soul」とは紛い物のソウルミュージックという意味を含めたもの。紛い物の意味では
” plastic ” が普通だそうなのですが、プラスティックならゴム(rubber)も一緒、そして
” rubber sole(ゴム底靴)” とかけてジョンがタイトル付けしたというのは有名な話し。
英国人気質を実によく表した逸話ですが(特にジョンの)、所詮我々のソウルはなんちゃって
ソウル、という自嘲的な意味も勿論あったのでしょう。しかし、私はある意味ジョン達の何でも自分達なりの
音楽に取り込んで見せる、という自負の意味合いもあったのではないかと勝手に思っています。
古くはケルト音楽やブリティッシュトラッドフォークなど英国固有の音楽が有ることには有りますが、
北米のソウル・ブルース・カントリー、そしてそこから派生したR&Rや、中南米音楽などに
憧憬を抱いていたイギリス人ミュージシャン達は、イギリスには固有の音楽がない(これは他人の
芝生はナントカだと思いますがね … )、だからこそ他国の文化でも取り込めるものは何でも取り込もうと
いった姿勢の裏返しだったのではないかと思うのです … あれ?ビートルズ回じゃないよね?・・・
いずれにしても面白いのは、逆輸入の形で本場のオーティスがビートルズやストーンズを
カヴァーしたのは誠に興味深い事です。当然の事ながらポップスチャートを賑わせているヒット曲を
取り上げれば一般にウケが良い、という目論見があった事は否定出来ませんが、しかしオーティスや
ブッカー・T&ザ・MG’sの面々にとっては、それらイギリス勢が自分達なりに消化(昇華)した
ブリティッシュソウル・R&Bとでも呼ぶべきものに並々ならぬ関心を抱いたのではないかと
思うのです。特にMG’sは黒人・白人二人ずつの混成バンドなので余計に触発されたのでは?

67年3月には6thアルバムである「King & Queen」(カーラ・トーマスと共作名義)をリリース。
上はオープニング曲である「Knock on Wood」。R&Bチャートで5位、ポップスチャートでも
36位と初めてTOP40入りします。

オーティスは64年1月のデビューアルバムから上記の「King & Queen」まで、わずか3年あまりで
6枚のアルバムを出した事になります。ちょっと異常とも言えるペースです。それはまるで、
生き急いでいるかの様にも思えてしまいます・・・・・・・・・・続きは次回にて。

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